皆様こんにちは、学部3年生になりました、日本史研究室の下総介です。

さて今回は、先月に私が個人的に呼びかけて実施いたしました岩切巡検「陸奥国府と留守氏の本拠を巡る旅」の模様を、ダイジェスト的にご紹介します。

この巡検は5月中の実施予定でしたが、2度の延期を経て梅雨に被る6月になってしまったものです。当日は午後から雨☂で打ち切りに。また秋にでも再度実施予定です。
今回は、こもんどうだけでなく日本史研究室にもお声を掛けて参加者を頂き、小規模ながら充実した会になりました。


集合は仙台駅。東北本線で岩切駅へ向かい、駅からの眺めで往時の景色を忍びます。

IMG_8250
<岩切駅からの景観 当日はこんなに晴れてません!!(´;ω;`)>

手前の住宅地の中に、中世陸奥の国府のにぎわいを想起させる遺跡「洞ノ口遺跡」があります。
陸奥国府の正確な位置や構造は断定できませんが、洞ノ口遺跡は「たかのこう(多賀の国府)」の一部には違いないでしょう。左手の七北田川には川湊があり、地名から市の存在が想定されています。七北田川上流に向かって中世的景観を持つ地域がいくつも分布しており、水上交通があったのでしょう。

そして正面が「高森山」です。「モリ」は「亡霊の集う山」という意味に通じるのではないかと私は考えています。お隣山形の庄内地方にはモリ供養という行事を持つ大森山があり、関連も視野に考えていきたいところです。「高」の由来は多賀か国府か、判断に迷いますが、いずれにしても目の前には陸奥国府の霊場空間が横たわっています。

さて、最初は洞ノ口遺跡まで歩きました。ここはかつて畑の中に堀などの区画施設が残っていましたが、区画整理と共に地表面遺構は湮滅しました。川沿いで水分の多い土地柄、発掘調査では木製品を含むバラエティー豊かな遺物が出土しています。

IMG_8251
<洞ノ口遺跡現況>
ブラタモリが如く、しゃがんで道路の起伏を見ると、ここが自然堤防上の微高地であることがわかります。「河原にできた中世の町」の一つでしょうね。

続いて東光寺周辺へ歩きました。
高森山と陸奥国府の間には数多くの塚や板碑が分布し、境界の霊場を形成していたものと思われます。そのなかで、数・質ともに群を抜いて優れた地点が東光寺周辺です。

今回は手前の入山にある地蔵堂板碑群を見て、板碑とはなにか、道と境界とはどういうものかご覧頂いた後、東光寺へ向かいました。

IMG_8259
<地蔵堂板碑群(別日に撮影) 右に見えている道は近世青麻道で、中近世を通じて、ここは山道の登り口になります。>

東光寺の起源は明らかでありませんが、古代に遡る可能性も指摘されています。
IMG_0896
<仙台市博に展示されている東光寺遺跡出土の中世鬼瓦>

東光寺では数々の優品の板碑を見て回り、いくつかでは簡単にひかり拓本を採りました。

IMG_E3973[1]
<弘安九(1286)年の板碑のひかり拓本 美しい文字です☆>

東光寺板碑群の優れている所は、原位置を留めているものがいくつかあり、やぐら(石窟)、大型板碑に寄りそう小型板碑などを合わせて見ることが出来る点です。中世の人々が魂をどのように考え、板碑を造立したのか、肌で感じながら想いを馳せることが出来ます。

IMG_2967
<東光寺板碑群本堂北地区(別日に撮影)>


あわせて東光寺には、仙台でも指折りの大型摩崖仏、東光寺石窟仏や摩崖仏の数々、結界の堀切、山岳寺院の堂宇の跡と考えられる平場群など、石碑に限らず素晴らしいものが沢山見られます。

IMG_3387
<東光寺石窟仏 仙台市博に型取りして作られたレプリカがありますが、跪いて見上げた時の威厳や石窟のひんやりとした質感など、ホンモノの持つ力は”段違い”です。>

もっと興味深いのは、山上・本堂北平場・西平場地区の状況や洞ノ口遺跡での出土品を合わせて、板碑文化の終焉を考えることも出来る点でしょう。この辺から先は、長くなりますので有料版で、、、、(笑)

IMG_9703
<東光寺裏の大堀切(別日に撮影)>

IMG_0898
<洞ノ口遺跡出土木製卒塔婆(五輪塔部分) 仙台市博展示品>

冗談はさて置き、堀切を見終えてから岩切城へ移動したのですが、雨に降られて打ち切りになりました。

洞ノ口遺跡・東光寺遺跡と陸奥国府の周辺は、中世の人々のにぎわいと、近世への大きな移ろいの中でうしなわれた世界観を感じさせてくれる素敵な遺跡群です。
現代の死生観からは理解し難いことも多々ありますが、「送る」をキイワードに、人々の想い・願いを思い起こすと、大地のきびしさの中で共に生き、慎ましくも豊かな生活を営んだ人々が浮かんでくることがあります。

この地域の遺跡群は一括して「陸奥国府関連遺跡」として史跡にしても良さそうなのですが、ほとんどの遺跡は既に宅地化や開発の波にのまれており、現地案内版やガイダンス施設などは皆無に等しく、事前知識か解説なしには中々楽しめないのが大変残念です。
以前の仙台城ツアーと言い、わたくし下総介がご案内する内容は普段「文字」を読むこもんどうの活動とは少し違うものですが、石碑調査が充実し始めているこもんどうの活動にも、周辺知識として参考にして頂ける内容だったと思います。

ここまでお読み頂きありがとうございました。またお会いしましょう!